クリプトンガイドラインの解釈と見解 2/2

論文名
クリプトンガイドラインの解釈と見解
筆 者
東村光 秋葉原大学萌学部准教授
Title
How to read to Crypton's guideline
Auther
Hikari Higashimura Associate Professor. /The University of Akihabara
副 題
CGM上のキャラクターにおける二次創作コントロール
Subtitle
Coterie expression control method for CGM charactor
初 出
秋葉原大学(web公開)   2008年1月31日  
収 録
秋葉原大学萌事論文集(萌集) 収録予定 未刊行 コミックマーケット74新刊予定
Source
TUA of MOE Reports   JAN 31 /2008 Will publication at ComicMarkets 74

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U.  クリプトン・ガイドラインの検討

V. 補足


U クリプトン・ガイドラインの検討

1.ガイドラインの構成

クリプトン社は、初音ミク及びボーカロイドについてガイドライン [1]を制定している。このガイドラインでは、主に画像の同人利用を前提とするものと解釈される公式画像の二次創作物についての規定を行っている。ここでは、「営利目的ではない趣味の範囲」における二次創作は「一切の制限を行っておりません」という表現により、許諾が為されている。これは一般的な二次創作のガイドラインであると言える。しかしこの趣味の範囲には括弧書きで付帯条件が付けられている点に留意したい。付帯条件として、「ゲーム作品を含むプログラム、立体物、衣装を除く」とされている。この付帯条件について検討を行うと、衣装はコスプレ、立体物はフィギュア・グッズを指すと解釈できる。つまりコスプレ用の衣服及びフィギュア等の個人作成物の販売については許諾されていない。これは KEY や TYPE-MOON が、非営利の同人活動については媒体を問わず許諾 [2]している事例と比べると、ガイドラインによる制限が厳しく為されていると言えるだろう。

Leaf [3]は、二次創作についてのガイドラインとして「表現を行う媒体と問わず一切の制限を行っておりません。(但し立体物及び一部の音楽素材を除く)」と定めている。このうち、「一部の音楽素材」は JASRAC 信託曲を指しており、既に版権管理そのものを委託していることから、このガイドラインの適用の範囲外であることを示している。「立体物(フィギュア・グッズ)」については例外として、即売会に限定した頒布について許諾している。この立体物が例外として頒布が即売会に限定されていることとして、立体物を即売会以外の場所でも頒布する為には大量生産(量産)が必要であり、営利目的と見なされるという考え方に基づいている。

 

2.プログラムの制限

 ガイドラインにおいて、ゲーム作品を含むプログラムが制限の対象として明示されている。近年のデジタル化の進展に伴い、ファン活動の一つとしてゲームの作成・頒布は、盛んに行われている。いわゆる同人ソフトという形態を念頭に置いていると思われるこの項目を狙いとする点について推測を行う。

 この理由として、ボーカロイドキャラクターに対する影響力が、他の表現媒体と比べ大きい為であるというものが第一に考えられる。 CG +シナリオで展開されるゲームは、同人誌と比べると圧倒的に情報量が多い媒体である。このことからキャラクターイメージに対する影響力をコントロールできないため、制限を行っていると考えられる。初音ミクはそのキャラクター形成の特性上、ストーリーによる規定が行われていない点が特徴 [4]であり、またクリプトンの狙い [5]とするところであろう。クリプトンのボーカロイドに対する姿勢は、一環として CGM によりキャラクター形成されるべきとの姿勢を保っている。葱やロードローラーというボーカロイドキャラクターへの付属品について、率先した介入を行うことなく、現れたものを許容することを行ってきた。その態度は、商業誌上で展開されている初音ミクの漫画作品を、メーカー非公式という形で一同人誌と同じ立場に置いていることからも読み取れるであろう。

 推測の域を出ないが、おそらくクリプトン側は、紙媒体と比べより包括的な表現可能であるゲームは、ユーザーに大きな印象を与えることを懸念しているのではないだろうか? 葱やロードローラーの事例に置いては、1ユーザーの提案が、ニコニコ動画という CGM の理念を体現しうる環境で大きな支持を得た結果として定着しているのに対し、ゲームという媒体を通じて為される1ユーザーの提案が、 CGM のプロセスを通過しないままに定着してしまうことを避けようとしているのではないだろうか?

 この点については、あくまでも推測でありクリプトン側の意図を正確に読み取るためには、公式の見解を待つ他はないだろう。

 

3.立体物・衣装の制限

 こちらは情報量ではなく一般に頒布する為の量産性の観点から、非営利目的を逸脱するとの判断に基づくものであると解釈される。またガイドラインでは「営利目的ではない趣味の範囲で製作し頒布する場合」となっている。このことから、頒布を目的としない制作については許諾されていると解釈することが妥当であろう。つまり自分で着用することを目的とするコスプレ衣装の作成については許諾の範囲内である。現状ではコスプレ用衣装の同人市場 [6]は成立していない為、この衣装に関する制限は、大きな影響を及ぼさないと目される。

 立体物については、 Leaf を先例に取ると、当日版権などにより制限を解除する手法が既に確立されており、原則禁止とした上で条件を整えた場合に制限を解除する体制を整えることで、同人活動の範囲を確保することは可能 [7]であろう。

 

4.表現の制限

 他社のガイドラインが表現の具体的内容について触れない中で、クリプトンは明確に製品イメージと公序良俗というキーワードに触れる内容の表現を制限することを明らかにした。第一の論点は、この内容の妥当性にある。クリプトンが標榜する CGM とはユーザーによるコミュニケーションの中で、キャラクターが形成されるという現象を含む概念である。それはニコニコ動画を初めとするオンライン媒体のみならず、伝統的媒体である同人誌・ゲームなどを通じて為されることもある。ガイドラインにおける制限事項は、 CGM について基本的には介入をしないという方針をとりながらも、性的な表現並びに残虐表現 [8]については公式に認めないという形で介入する可能性を示唆している。

 他社のガイドラインでは、表現の媒体についての規制はあっても内容には介入しない事例が多い。しかしこれは原作 [9]のあり方の違いに立脚した結果生じたものであろう。本稿において引用した Leaf 、 KEY 、 TYPE-MOON はいずれも成年向けの作品をリリースしている。つまり原作の段階において性的な表現が既に為されており、二次創作で性的な表現が行われたとしても原作のイメージ [10]を著しく損なう訳ではない。一方ボーカロイドは、 DTM ユーザーに向けた楽器である。そこに性的なイメージがついてしまうことは、イメージを著しく損なうことである。この元々の立ち位置の違いがあるからこそ、ボーカロイドについて、性的なイメージを排除しようとする制限は正当性を持ちうるのである。

 

 第二の論点は、この制限の具体的な運用のあり方にある。公序良俗や著しくイメージを損なうと言う項目の具体的内容が定められていないのである。この解釈については、法律における判例法の確立プロセスと同様に、実際の事例への対処の積み重ねの中で形成されている。そして抱き枕問題やデ P 問題により示されたクリプトンの判断を通じて明らかにされつつあるのが現状である。

 この論点は、同人に関わる表現の自由 [11]の問題と繋がっている。著作権の非親告罪化の議論の中で、表現手法としてのパロディに対する懸念がクローズアップされた。このなかで非親告罪化が成立することで、パロディ(二次創作)が牽制され同人活動が萎縮するのではないかという見解が示された。クリプトンによるガイドラインの適用態度次第では、ボーカロイドに対する同人活動が大きく萎縮する可能性を秘めている。極論を恐れずに例え話を展開すると、ボーカロイドに対する批判的内容を含む同人誌が、製品イメージを著しく損なうという内容を適用されることで、発行できなくなる可能性 [12]は存在するのだ。少なくとも大量のボーカロイド成年向け同人誌が発行されているという現実の中で、これらのサークルはいつクリプトンから頒布の停止を勧告されてもおかしくないリスクを負っていると言える。

 しかしこのようなリスクは、ハヤテの如くなどに見られる一般向け原作の成年向け同人に共通したリスクであり、ボーカロイドが特に突出するものではない。むしろ成年向けゲームが例外であると捉えることが適切である。性的なイメージは反社会的なものとしての反発を招きやすく、権利者側のイメージ管理上における最も関心のある点であろう。

 ボーカロイドは既に述べたように CGM の典型例として、コミュニティの中でキャラクター形成が為されている点が特徴である。つまりユーザーサイドの盛り上がりにより、“初音ミクブーム”が現出したのである。クリプトン社の定める制限は、この盛り上がりに水を差しかねない内容であることが論点として取り上げるに値するのである。

 性的なイメージを払拭したいということは、企業としての対応として正当なものである。しかしボーカロイドに固有の事情として、ユーザーが様々な表現を行うことで今日の人気に至ったという点がある。この様々な表現とは、表現を行う上での制約に囚われなかったからこそ実現したのである。葱やロードローラーといった意表をつくアイテムは、制約の元では誕生し得なかったであろう。つまりクリプトンは、いかなる事例であれ表現の範囲に制約を設けるようなことを行うべきではないのである。ここに企業としての対応と実際のボーカロイドの展開プロセスの間における矛盾を見いだすことが出来る。

 

 実際の対応として、既に氾濫状態にあるボーカロイドの成年向け同人誌について、クリプトンは黙認という態度を貫いている。これは制限を設けることで、製品イメージを損なわせかねない過激な表現を牽制しつつも、実際にはユーザーの表現について介入しないという態度を取ることで、同人活動を萎縮させないという現実的な判断に基づくものであると推測される。このような応対によりボーカロイド関係の同人活動は大きく萎縮する結果にはならなかった。抱き枕問題は発生したが、その影響は極めて局地的なものであり、成年向けを含む同人誌は夥しい数が発行され、またゲームについても許諾を与えた上での販売 [13]が行われた。

 

5.ガイドラインの影響

 現状は、大手の同人サークルであっても、その表現媒体が同人誌である限り、特に問題となるようなクリプトン側からのアクションは確認されていない。しかしデッドボール P の問題に見られるように今後の制限が厳密に行われる可能性は存在する。

 ここで、クリプトンによる二次創作のコントロールが可能であるのかという新しい論点を見いだしうるのである。特に CGM の象徴とも言えるボーカロイドの二次創作展開は、この後に続く CGM 作品にとって先行事例として大きな影響力を持つであろう。このボーカロイドの二次創作をどのようにコントールするのかという方向性は、ボーカロイドの今後の盛り上がりを左右する重要な要素である。萌えの構造上、キャラクターへの性的な表現を完全に排除しつつ、盛り上がりを維持することは難しい。それは性的な表現に対する巨大な需要の存在を無視しては、萌えは成り立たないという現実を踏まえたものである。ディズニーのような厳格な著作権管理の手法を初音ミクのような CGM に立脚するキャラクターが用いることは不可能であろう。それは今までの経緯を否定することに繋がる。

 クリプトンは、ガイドラインに明示した制限の対象となるべき二次創作の作品への対応を行い、企業として製品イメージに努めつつ、同時に CGM の理念の体現の一つとして同人表現への許容を行うという矛盾する二つの方向性の折り合いをつけなければならないという問題に直面しているのである。

少なくともガイドラインにおける様々な制限は、現状に適したものではない。しかしながら企業としての立場上、不適切な表現 [14]を公認することもまた不可能 [15]である。結局、最終的にはガイドラインに従った同人作品へのコントロールを実施するか、黙認を続けボーカロイドにおける様々な可能性を容認しつつ企業としてのあり方との板挟みというより厳しい状況へ進むかの二択に迫られるであろう。これは本質として、企業としてのあり方を取るか、徹底したユーザーサイドの立場を取るのかという問題であろう。そしてクリプトンがどのような選択を取るのかということは、 CGM の手法を用いたビジネスに大きな影響を与える。この問題への対応が先例となり、今後の流れを大きく左右することになるだろう。

 

 

V 補足

1.デッドボール P の問題への補足

 デッドボール P の問題については、「通報」と「連続的投稿」という特に対応を要する要素が含まれており、この問題への対応がボーカロイドを巡る全体の問題に直結するとは限らない。しかし実際に削除という具体的な行動に出たことから類推される可能性について、今までのボーカロイドへの具体的表現を巡る問題を参考に行ったものが今回の議論である。

 

2.ボーカロイドにおける公序良俗に反する表現への私的見解

 筆者はボーカロイドにおける性的な表現を含む公序良俗に反する表現は、一般的な二次創作の範疇であれば許容されるべきとの見解に立つ。それは性的な表現に対する需要は大きいものであり、これを除外した盛り上がりは、“萌え”をターゲットにする以上不可避の範疇であると考えるからである。これは性的な表現を好む・好まないという感想レベルの見解ではなく、萌えの構造を踏まえた上での見解であることを明示する。

 クリプトン側の企業としてのあり方上、公序良俗に反する表現を制限することについては、理解を示す。これは企業としての立場を理解した上での見解であり、積極的に制限を推進するものではない。

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  1. http://piapro.jp/a/contents_guideline/
  2. http://key.visualarts.gr.jp/q_a/q_a_nijisozai.html
  3. http://www.aquaplus.co.jp/copyrgt.html
  4. 秋葉原大 東村 平 19 年 12 月 31 日 萌タ 73 号 16 項 (V章)
  5. 背景無き初音ミク  http://upfg.lullsound.com/akiba-u.ac.jp/thesis/0712311miku1.html
  6. http://www.p-tina.net/interview/18/02.html
  7. 商業市場は、コスパなどの営利企業の参入により成立している。
  8. ワンフェスなどの大規模なフィギュアイベントにおけるクリプトンの対応に着目したい。
  9. クリプトン社では、エロティック・グロテスクという表現を用いる。
  10. ボーカロイドについては原素材の表現が用いられている
  11. “エロゲー”作品というイメージ
  12. 憲法上の権利を念頭に置きつつ、同人の実態に即した議論を行う。
  13. あくまでも可能性の話である。
  14. この件については、掲示板におけるやりとりを根拠している為、誤りがあるかもしれない。
  15. 特に性的なものが筆頭であろう。
  16. クリプトン社の社会的信用に直結する。

参考文献